滲むような色彩

柔らかな光を背に受けるシュナイゼルの姿を見るにつけ、ロイドはいつも溶けてそのまま消えてしまいそうだと思う。

輪郭すらも曖昧にして微笑む彼は科学者たるロイドが言うのもあれだが、非現実的。

暖かな陽射しに淡い金糸はぼやけて滲み、光を透かした肌は血管すら浮かべずにそれそのものが発光するよう。人の膚を形容するときにミルクだとか雪花石膏だとかいうけれど、そんなとおり一辺倒で稚拙なそこら中に溢れている物とシュナイゼルのそれとは全然違う。

文学的(芸術的?)な表現なんて逆立ちしたって出てきやしないし、貴族社会の華々しいパーティーやらお茶会なんかには全く興味もなく参加していないから、世間一般の人々が彼の容姿をどう賞賛しているかなんて知らないロイドは端的にしっくりぴったりくる言葉が出てこなくて、そのもどかしさに大理石を手作業でモザイク模様に仕上げた瀟洒なガーデンテーブルの天板の下、地団駄を踏む。

ああでもないこうでもないと顔中の筋肉を動かしながら優秀な頭脳を働かせ端から端まで浚ってみるも、上手い喩えは出てこない。

不思議な事にナイトメアフレームや非有機物、化学式相手にならいくらでも出てくるのだが、それを人様に応用しようとなると途端に彼の言語機能は美辞麗句を忘れてしまうのだ。それでもこのすっきりとしない蟠りを現そうと本業時すらなかなかない程の悪戦苦闘を(脳内でだが)繰り広げる。

そんな風に情人が思考の海を漂っている間、当然放っておかれているシュナイゼルは優雅に白磁のカップを傾けて喉を滑り落ち潤すその味を楽しみ、庭師が丹誠込めて整備する庭園の景色に目を和ませる。たとえ忙しい政務の合間を縫って久々に捻出した休暇を共に過ごす愛人が蔑ろにしようとも、シュナイゼルの機嫌が損われることはけしてない。

第二皇子殿下においては己の正面にて晒される情人の百面相を至極楽しげに観賞する余裕すらある。

ロイドと付き合うのならば、彼の突飛な言動及び珍妙な思考回路を気にするなど愚の骨頂。彼の奇人変人ぷりを楽しむ程度の素養がなければやっていけない。

そして宰相閣下はといえば、むしろロイドのそんな所を好いているのだから現在の状況に腹を立てるような事があるはずもなく、彼の中ではこれも恋人と過ごす有意義な時間にカウントされる。

しかしそうは言ってもあまり放っておかれるのもつまらない。

常日頃奇妙に笑った顔くらいしか見せない男の滅多に見ない表情も十分に堪能したことだし、そろそろこの鑑賞会(シュナイゼルの慧眼は、思索に没頭していてもロイドの視線が決して自分から逸れていないことを見逃してはいない)を切り上げてもいいだろう。時間は限られ、恋人達にとって夜はなお一層に短い。

「ロイド」

音一つ立てずにソーサーにカップを戻した皇子殿下は狂科学者の意識をこちらに向けさせるべく甘やかに名前を呼んだ。呼ばれた当人は惨敗続きの戦場から潔く引き上げると、難問を与えてくださった麗しの人に意識を固定する。

「なにぃ」

投げやりな返事に相応しく、両腕を投げ出しべたりと机になつくロイドに苦笑して、シュナイゼルは緩やかに小首をかしげる。

「さっきから妙な顔をして、どうしたんだ?」

「ん〜う。なぁんかさぁこう胸につっかえてるもやや〜んとした、あそっかぁ」

さらりと流れる優しい金を目で追って、この心境を訴えようとしていたロイドははたと自分が口にした言葉に閃いた。

机上に乗せた胸部はそのままに顔だけもち上げ、それでもなお足りない角度に上目遣いで伺う、微笑む高貴なる人を形容するのに最も的確な言葉。

「シュナイゼルってなんだかもやもやしてて朝靄みたいだよねぇ」

仮にも宰相、第二皇子殿下に向けるには無礼といえば無礼な発言である。

しかしそれがロイドにとっての最大級の讃辞であると理解しているシュナイゼルはにっこりと朗らかに笑った。

「ありがとう」

まさしく光り輝かんばかりのその笑顔はすさまじく眼に心地よく、ロイドは喉を撫でられた猫のように眼を細めてへにゃりと相好を崩した。

白いのにミルクみたいに濁ってなくてでも鉱石のように硬く透明ではなくて、そこにあるのに淡くぼやける触れているようで触れていない曖昧な包む柔らかさ。

その中でたったひとつ濃い青紫の瞳だけが異質だったが、宵闇のようなそれは不可思議でいっそう魅力的に見せるだけの効果しかない。

とらえどころのない彼はまるで物語に出てくる妖精みたいだなぁとロイドはのんびり体を起こすがそれを口にはしなかった。

そこまで発展させたのなら率直に伝えればいいのに、先ほどの言葉で難問にかたを付け自身で深く納得した上、シュナイゼルも機嫌を悪くしてないから(どころか笑顔でお礼を言った)正解だろうと、妖精という至極まっとうな賛美は科学者の胸中に収められてしまい、日の目を見ること少なくとも当分はないだろう。

しかしどんなにまともな美辞麗句だろうと、第二皇子殿下を妖精と形容した者はかつていなかった事は確実である。きっと他人様が聞けば絶句して凍りつく事もまた純然だる事実だ。

天下のブリタニア宰相閣下に妖精さん認定を下しそうカテゴライズした畏れ知らずの奇人は話題を移し、今考案している飛行装置についての論説をつらつらと語り始める。

それを興味深く聞き、さて仕上がった暁にはどこでどう使用するのが一番効果的かなと戦略を巡らせつつ恋人との時間を楽しむ物騒極まりない妖精さんもといシュナイゼル殿下とロイド博士は、なんだかんだでお似合であるのだ。

 

 

 

 

ロイドは奇人変人だけど、シュナイゼルは不思議ちゃんだと思います。

そしてロイドは殿下のことを妖精だとカテゴライズしています(それは貴様だろう)

だって可愛いし可憐だし悪戯っぽくてしたたかで蠱惑的で美人で不思議だし!!

天使ほど純真無垢でなく、悪魔ほど邪悪ではない。

そのさじ加減が妖精さんのたまらない魅力だと思います。

というわけでシュナイゼル殿下は妖精です。フェアリーなのです!!

なぜこんなに熱く語るかというと某通販雑誌を見ていてそれに乗っていた外国人モデル(白いふわふわレースのキャミワンピに紫の胸紐!!)が本当に光に溶けそうで、一緒に見ていた姉の「こうなるとホントもう人間じゃくなて妖精だよね」という発言に、金髪青眼に白い肌で殿下はこんなんなんだろーなーと思っていた私は「そうか。殿下は妖精さんなのかー」と納得。

そして某神サイトさまでの蝶々殿下を拝謁し、やはり殿下は妖精さんと確信を深めるに至りました。

殿下はいつでもふわふわほわほわ花をとばしていると思いますです。

というわけで当サイトのロイシュナは奇人変人博士と不思議妖精殿下でいきます。

古来様々なフェアリーテイルより、変人と妖精さんは相性ばっちしときまっています。はい